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神戸地方裁判所 昭和27年(ヨ)108号 判決 1952年8月08日

申請人 金田英太郎 外六名

被申請人 神戸タクシー株式会社

主文

被申請人は申請人平野友紀、同長谷川芳一、同国松政一を被申請人会社の従業員として取扱い且昭和二十七年一月一日以降毎月別表その一に記載した金員を支払わねばならない。

その余の申請人等の申請はこれを却下する。

訴訟費用中申請人平野友紀同長谷川芳一及び同国松政一と被申請人との間に生じた部分は被申請人の負担とし、その余の部分は、その余の申請人等の負担とする。

(無保証)

事実

申請人等代理人は「被申請人は申請人等を被申請人会社の従業員として取扱い、且昭和二十七年一月一日以降別表その一に記載の金員を支払わねばならない。」との判決を求め、

その申請の理由として、

「被申請人会社は、前記肩書地に本社を置き須磨、明石、姫路、大橋外三ケ所に各営業所を有し、普通乗用車四七台、小型三輪車六一台を所有し従業員一七四名を以て旅客運送業を営む資本金二、四九五、〇〇〇円の株式会社であり、申請人金田英太郎は昭和二十四年八月に平野友紀は昭和二十五年七月十二日に同長谷川芳一は同年二月二十四日に同平山栄は昭和二十一年三月二十日に同国松政一は昭和二十三年二月二十日に同土村功は昭和二十四年十一月十二日に同家田博之は昭和二十五年一月十三日にそれぞれ被申請人会社に運転手として入社し、申請人金田は被申請人会社の従業員を以つて結成されている神戸タクシー労働組合の副委員長、その他の申請人六名は組合員であるところ、昭和二十六年十二月末会社組合間に越年資金支給の件につき団体交渉中、被申請人より申請人等に対し退社の勧告をなし来つたが、何分年の瀬の押し迫つた時期であつたので別に新春改めて協議したい旨被申請人に申入れた。

然るに被申請人はこれに耳を藉さず、申請人等七名に対し「昭和二十六年度勤務状態を審議した結果成績不良につき就業規則第四九条(ル)項により昭和二十六年十二月三十日付を以つて解雇する」との通告を発し右書面は昭和二十七年一月一日それぞれ申請人等に到達した。

然しながら右解雇は次の様な違法があるので無効である。

(一)  右就業規則第四九条(ル)項は「特に勤務状態の不良なる者」を以つて懲戒解雇をなし得る旨定めているが、申請人等は右にいわゆる「特に勤務状態の不良なる者」には該当しない。

被申請人は右条項の認定基準として「(1)昭和二十六年三月度より十一月度までの運送収入の総計五〇〇、〇〇〇円以下の者(2)昭和二十六年十二月度の成績(総額日額粁当を含む)(3)年間成績には稼動月を計算する。以上の成績を総合して重複下位劣等者を解雇該当者とする」というのであるが、この認定基準自体非合理的なものである、なんとなれば被申請人の経営方法は、ハイヤー部(本社営業所等に運転手車輛を待機せしめ乗客の申込に応じて始めて出動し、これを運送するもの)とタクシー部(いわゆる「流し」で常に市内を巡遊して乗客をうるもの)とに分れており、ハイヤー部所属従業員は自己の責に帰すべき水揚げ成績なるものを有しないのに反し、タクシー部従業員のみは近時乱立した他の同業会社との激烈な競争の結果常に浮動の水揚げ成績従つて又その賃金収入の高低に悩まされる極めて不利な状態におかれている。

又、就業規則第六条によれば実働八時間の定めにも拘らず実際上タクシー部従業員は各拘束時間を遙に超過する平均十五、六時間の稼働を強要せしめられている。それにタクシー部には老朽自動車を配置し且二車三人制の勤務制度を採用している関係上タクシー部従業員は必然的に三日に一日の割合に依る不就業並に老朽自動車の故障修理による殆ど恒常的な不稼動を余儀なくせしめられている、申請人等は右の如き故障修理の結果或は病気欠勤等のため不就業不稼働を余儀なくされたものであるが、この様な事由が就業規則第四九条(ル)項の「勤務状態の不良なる者」に該当しないことは同条所定の他の項目と比較してみれば明白である。この様にタクシー部だけにしか当てはまらない水揚高や、協約所定の拘束八時間制を無視した強制労働の結果を標準とし老朽自動車の故障修理等正当事由に基く不稼動を全然考慮に入れない、前記認定基準はそれ自体合理性を欠くものである。従つて故障修理や病気欠勤による不就業、不稼働を除去して計算してみると申請人等は一日当り平均水揚高時間当り成績において非解雇者より高位或は同等に位して居り、又就業規則所定の拘束八時間勤務制に還元して眺めてみると申請人等は何れもその平均水揚高において非解雇者に勝るとも劣らないものである。のみならず組合員等としては昭和二十六年八月組合員増元喜久義の解雇に端を発した争議が同年十月解決したのを機会に心機一転して能率向上を期待したが被申請人は組合との間に協定した給料支払日を厳守することやフオード以外の車輛を他社に譲渡しないことや代燃車をガソリン車に切替後は一人一車制当時の担当者にそれぞれその車を使用させハイヤー勤めとして乗務させる等の約束を一向履行せず同月早くも申請人等を含む多数の組合員の解雇をほのめかす等、申請人等従業員の勤労意欲をそぐ様な事をなしむしろ被申請人自ら営業成績の上がらない原因を作つているのであるそれにも拘らず、同年十二月にはそれ以前の月に比し多額の水揚げ高を上げているのであつて何れにしても申請人等を「特に勤務状態不良なる者」ということはできない。

(二)  本件解雇は労働組合法第七条第三号違反の不当労働行為である。

被申請人会社社長は労務管理の何たるかを解せず常に組合員は相手にしないと放言し、ハイヤー部には組合脱落従業員を配属してこれ等には衣服等を給与するが、タクシー部には組合員のみを配属して、これ等には何等給与するところなく、他面申請人等の解雇前後を通じてその技能経験において劣る運転手等を続々ハイヤー部に新規採用し、同人等の組合加入を暗に阻止すると共に組合員運転手のハイヤー部配属を拒否する等の挙にでている、そして前記解雇基準はハイヤー部に適用せられ得ず組合員のみのタクシー部に適用せられるものであること等を考え合せると被申請人が申請人等を解雇せんとする目的は組合員たる申請人等を排除することによつて組合組織の弱体化、消滅化を企図したものであつて、これは労働組合法第七条第三号にいわゆる「使用者が労働組合を……運営することを支配し……介入すること」に該当する不当労働行為であつて無効である。

(三)  本件解雇は就業規則第五十条に違反している。

同条には「制裁は運営委員会の決議を経てこれを行う」とあるのに本件解雇に当つては何等右運営委員会の決議を経ることなく一方的になされたものであるから無効である。

本件解雇には前記の如き違法があるので被申請人を相手方として解雇無効確認等の訴訟を提起する積りであるが申請人等にとつて本案判決確定まで職場復帰賃金の支給が事実上引延ばされることは到底堪えられないところであるので従業員たる地位の保全竝に解雇当時の賃金の支払を受けるため仮の地位を定める仮処分として申請の趣旨記載の如き判決を求めるものである」

と述べた。(疎明省略)

被申請人代理人は

申請人等の申請を却下する。

との判決を求め

申請の理由に対する答弁として

「申請人等主張事実中タクシー部に老朽車のみを配置する等ハイヤー部に比し不利益な差別的取扱をしているとの事実、ハイヤー部の従業員が全部非組合員であるとの事実、申請人等が「特に勤務状態の不良なる者」に該当しないとの事実、本件解雇が組合弱体化をねらつた不当労働行為であるとの事実、運営委員会の決議を経ていないとの事実は否認するが、その余の事実は認める。

被申請人が、申請人等を解雇するに至つたいきさつ竝に事由は次の通りである。

申請人等の勤務成績はタクシー部全従業員中最下位にあつて、全員の平均水揚高が他社に比し甚だ成績不良の中にあつて特に申請人等の成績は不良であつた、一方被申請人会社は資本金僅かに二三〇余万円の会社でありながら昭和二十六年度の決算に於て同期中自動車四一台建物一棟を売却した差益金九九八万円を計上してなお七九〇万円余の赤字となつていた状況にあつて企業の存立上成績の向上を強く要望せざるをえず従業員の見易い場所に各人の水揚高を示すグラフを掲示して各人の反省を促すと共に、昭和二十六年組合書記長増元喜久義の解雇に端を発した争議解決に当り組合側は全組合員気分を一転して業績の向上に努力することを確約したに拘らず一向改善の実が現われないことを遺憾とし組合幹部に対し、このままの状態ならば成績不良者の処分を考慮せざるを得ない旨警告したが、その効がみえないので同年十一月十八日運営委員会を開催し組合から幹部四名、会社から労務担当者二名出席、特に同業の神戸相互タクシー株式会社専務小田代氏の立会を煩らわし、成績改善策を協議すると共に会社としては昭和二十六年一月以降の成績不良者である申請人等七名外三名が依然同様の状態をつづけるにおいては、退社を求めざるを得ない旨を告げ組合幹部等は善処を約して会議を終了した。然るにその後の勤務成績をみると先に問題となつた十名中伊藤、堤、南坂の三名は十二月度の成績に相当改善の実が見えたが申請人等七名は改善の跡がみえず、就業規則第四九条(ル)項の「特に勤務状態の不良なる者」に該当すること明らかなので被申請人はもはや断固たる処置をとる外なしと決意し、同年十二月二十三日及三十日に運営委員会を開催してその議に附した上最初は申請人等の将来を考え、特に懲戒処分による解雇をさけ自発的退職を勧告したが、之を肯じないので、やむなく懲戒処分により解雇したものである。

申請人等は組合員を配置したタクシー部の従業員を、非組合員を配置したハイヤー部の従業員より不利益な扱いをすると主張するがその様な事実のない事は先にのべた通りである。尤もハイヤー部には非組合員が多いが最初被申請人会社においてハイヤー部を設けようとしたとき、組合は極力これに反対した事実に徹しても組合はハイヤー部の労働条件を不利と考えたからに外ならないであろうし又、ハイヤーは得意先から電話の註文によつて直ちに出動しなければならず接客態度の上において、タクシーよりも注意しなければならぬのであるが組合員の多くは粗暴であり、又組合の打合せとか、会議とか言つて随時仕事を休み、その際は会社の命令など聴かない実情にあるので、ハイヤー部には適せない者が多い等の諸種の事情によるものである。

被申請人はハイヤー部の従業員が組合に加入することに対し何等の制約もしてはいない。

申請人等は本件解雇は運営委員会の決議を経ていないから違法であると主張するが運営委員会を開いてその議に附したことは先にのべた通りであり、組合側の同意を得ることは出来なかつたが、被申請人は従来屡々組合に対し成績不良者に対する処置に関し申入をなし、組合側としても事情は熟知しているに拘らず徒に不同意を固執するのは、いわゆる決議権の濫用であつて、こういう場合には経営者に属する人事権の行使として解雇をなし得るものと解し、本件解雇を決定した次第であつて従つて解雇手続上においても何等の違法の点はない」

と述べた。(疎明省略)

理由

申請人等はそれぞれその主張の年月日に、その主張の如き旅客運送業を営む被申請人会社に雇はれ、タクシー部運転手として勤務し、申請人金田は被申請人会社の従業員を以て結成されている神戸タクシー労働組合の組合副委員長、その他の申請人六名は組合員であつたが昭和二十六年十二月三十日付を以て就業規則第四九条(ル)項「特に勤務状態の不良なる者」に該当するものとして懲戒解雇され、その旨の書面が昭和二十七年一月一日各申請人等に到達したこと、被申請人は(1)昭和二十六年三月度より十一月度までの間の運送収入の総計が五〇万円以下の者(2)昭和二十六年十二月度の成積(総額、日額粁当を含む)(3)年間成績には稼動月を計算する、以上の基準による成績を総合して重複下位劣等者を以て、前記(ル)項該当者としたことは当事者間に争がない。

よつて申請人等が右(ル)項に該当する者であるか否かにつき判断する。右(ル)項に「特に勤務状態の不良なる者」とは如何なる者を指すのであろうか。真正に作成されたものであることにつき争のない甲第二号証によれば被申請人会社の就業規則は従業員に対する懲戒処分として譴責、減給、出勤停止、乗車禁止、懲戒解雇の五種類の制裁が定められ、懲戒解雇はその内最も重い処分で前記第四九条は(イ)項ないし(カ)項まで十四項の懲戒事由を定めているが(ル)項以外の事由を見ても何れも従業員の不正ないし不都合の処為を事由とするものであり、五〇日前に予告するか三十日分の平均賃金を支給して解雇する普通の解雇の場合と異り懲戒解雇は即時に退職手当を支給せずして為されるものであること(第二十四条・第二十六条)が一応みとめられる。この事実に前記(ル)項も右懲戒解雇の一場合であることとを総合して考えると同項にいわゆる勤務状態の不良とは、単に形式的に勤務上の効果の挙らないだけの状態を云うのではなくしてその成績の不良が従業員の怠惰に基因する場合を指称するものと解すべきである。従つて水揚収益高の寡少を以つて直ちに右(ル)項にいう勤務状態の不良者に該当すると断定することは早計であろうが、しかし、申請人等のようにタクシーの運転者として一定の運転技術上の資格を有する者が同一会社内で同一条件の下に自由に乗客を求めて働く場合においては、相当長期にわたる総水揚高を見る限り、本人が病気で稼動日数が少なかつたとか、他の者に比し担当車輛が不良で修理のため出動できなかつた日数が多かつたとか、本人が如何に努力しても水揚成績を上げえないようなタクシー運転者として本来無能な者であるとか、その水揚高の寡少が本人の怠慢に関係のない事由に基因するとの特別事情の認められない以上一応水揚高の多寡を以つてその期間中の従業員の勤惰を物語るものと見てよいであろう。申請人等はタクシー部員にだけしか当てはまらない水揚高を解雇該当者の認定基準にするのは不合理であると主張し、被申請人会社の乗客運送業務がタクシー部とハイヤー部とに分れていることは当事者間に争なくその各部門の運転者の就業の仕方が申請人主張の通りであることはその性質上当然であるのでハイヤー部門において水揚高を云々することが無意味であることは申請人等の主張する通りであるが、タクシー部従業員相互の間における勤惰を測る尺度として水揚高なるものは尚重要な目安をなすものと言うべきである。ハイヤー部門に該当する勤務状態不良認定の基準は自ら又他に求むべく両者に通ずる基準でなければ勤務状態不良認定の基準にならぬという理窟はない。又申請人等は水揚高を標準として勤惰を判断することは実働八時間の就業規則を無視した強制労働の結果を招来することとなり不合理であるとも主張する。成程水揚高を勤務成績認定の基準とすれば、自ら従業員相互間の競争心を刺戟し、勢い八時間を超過して従業する結果となる心配もないではないが、前記甲第二号証によれば就業規則第六条には実働八時間とし、その就業時間を午前八時から午後七時までと一応定め、業務の特殊性から休憩時間を各自適当に取り、その始終業の時間を適宜に変更し実働八時間になるように案配する自由が与えられていることが疎明されるし申請人金田英太郎本人の供述により真正に作成されたもの、と認められる甲第八号証、証人沢山健次(第一回)の証言を総合すれば、昭和二十六年六月頃までは、五日出勤して六日目に公休日があり、同年七月よりは二日出勤して三日目が公休日で、一ケ月に公休日十日あり、公休日には出勤しなくても二百六十円の割の固定給が支給されていることが一応認められる。又都会のタクシー業なるものの性質上夜間の営業が収入の可成りの割合を占めるものであることは社会通念であるが、これ等の事実を総合して考えると、従業員は各自その勤務時間を工夫して実働八時間になるように働きつつ水揚成績を上げるよう努力すべきであつて、互に無理な競争をすることは従業員相互の団結の統制力を以て避けるの外はない。(走行距離を示すメーターにより実働時間の大体は容易に判明する筈である)申請人等従業員が団結してその無理な競争を避けることをせず、水揚競争のために自ら進んで八時間以上の労働をするのであれば、労働者の団結の認められた今日では、それを強制と見るのは妥当ではない。収入の水揚高によつて運転者の勤惰を測る基準となすことは八時間以上の実働を強制するものであるとの申請人等の主張の採用し難いのは勿論である。

さてそこで、申請人等の水揚高を調べてみると、証人沢山健次(第一回)の証言により真正に作成されたものと認められる乙第六号証の一・二、真正に作成されたものであることにつき争のない乙第七号証、被申請人主張のような写真であることにつき争のない第八号証の一・二・三に証人沢山健次(第一、二回とも)小田代勝巳の各証言を総合すれば、運転日報、運転者勤務表、個人運転収支明細表に基いて、昭和二十六年十二月現在のタクシー部運転手二十九名について、同年三月以来十二月までの各人の水揚高を調査した結果によれば、二十九名の平均水揚高、二十九名中最高の水揚高、最低の水揚高、申請人等七名の各月別の水揚高は別表その二の如くであること、神戸市内における被申請人と同業者である神港タクシー株式会社及び神戸相互タクシー株式会社における運転手一人当りの水揚高は別表その三に記載の通りであり、神戸相互タクシー株式会社で運転している自動車十台の内七台は三六年型及び三七年型フオードで右は被申請人会社で休車していたのを譲受けたもので、被申請人会社が現在使つているシボレー三七年型、三八年型に比べればずつと悪い車であること、被申請人会社は一般に水揚成績が悪いのでこれを向上させるべく毎月各人別の水揚高をグラフに書いて従業員の見易い処に貼り出すことをつづけていたが二十六年十月これより先増元組合書記長の解雇に端を発した争議が解決した際、組合側は心気一転して業績の向上に努力すると確約したに拘らず、一向改善の実が上がらないので同年十一月十八日被申請人側より沢山営業課長、岸本等が組合側より堤執行委員長、増元書記長等が元被申請人会社に勤めていた小田代勝巳の立会の下に集つて協議した際、沢山課長より組合側に対し水揚成績の悪い申請人等七名を含む十名についてもう一ケ月成績を見た上で上らなかつたらやめて貰うより仕方がないと申入れがあつたこと、同月末頃右成績不良の十名の氏名とその三月から十一月までの水揚高とを記載した表を前記グラフ同様貼り出して注意を喚起したこと、それにも拘らず申請人等七名の十二月の水揚高は大した向上の跡が見えなかつたことが疎明される。して見ると、被申請人会社のタクシー部運転者の前記三月から十二月までの水揚成績は神戸市内の他社の平均水揚に及ばず申請人等の同期間中における水揚成績はかかる被申請人会社の水揚成績の中にあつてなお大体最下位の部に属することが明である。

申請人等は病気、車体修理等の事実上稼働不能であつたための水揚減を考慮に入れずして水揚成績のみにより勤務状態不良を認定することの不合理を主張し、前記水揚期間(昭和二十六年三月ないし十二月)の申請人等の稼働不能状態の立証として甲第八号証の一ないし十、同第十五号証の一ないし七を提出するのであるが、出勤しながら不稼働に終つた事由は申請人各自の記憶に基き記載されたもので必ずしも正確とは認められないことは証人増元喜久義の証言と申請人金田英太郎の供述に証人沢山健治の第二回目の証言によつて、より正確な資料に基き作成されたものと認められる被申請人提出の第三準備書面末尾添付の表と成立に争のない乙第九号証に照し推断できるし、証人沢山健治(第一回)藤本次郎の各証言及び申請人金田英太郎の供述によれば被申請人会社のタクシー部配属自動車は大体同等の品質性能のものであることが疏明されるから、申請人等従業員がその取扱上特に不注意でない限りその修理頻度日数も右のような長期間について見れば大体同等な筈であり、又長期に互りタクシー運転のような相当疲労する労務に従事する者はその間幾等かの病気欠勤のあるべきことも通常の事態と見ねばならぬに拘らず、これ等の点につき比較すべき他の従業員の勤務状態を疏明すべき資料がないので、これら事由を以て申請人等の水揚成績不良の特別事情とするわけにいかない。尤も証人藤本次郎の証言によれば申請人金田は他の者より頻繁に自動車の修理を修理工場に申込んでいたことが認められるが、その修理は他の運転手ならば使用上支障ないとする程度の故障に関するものであることが多かつたことも又同証言により認められるところであるから、同申請人にとつてもこれは右の点に関する特別事由とはならない。してみると特別事由は結局甲第八号証の一ないし十、同十五号証の一ないし七をより正確なものと認める前記被申請人提出の第三準備書面添付の表と対照して認められる申請人等がそのことなかりせば稼働すべかりし次の不稼働日数(欠勤日数中公休にあたるべき日を除く)である。すなわち申請人金田の組合要務に従事した八月中の四日、申請人長谷川の車体検査に従事したと認められる五月中の十日、申請人国杉の病気による三月中の欠勤十七日、五月中の五日、車体検査のための修理に要した同月中の四日と六月中の十七日、申請人家田の病気による十一月中の欠勤十九日、申請人平野の病気による八月中の欠勤九日、車体検査のための修理に要した十月中の四日、申請人平山の病気による四月中の欠勤四日、車体検査のための修理に要した五月中の二十一日である。この他にも右甲第八号証第十五号の各証によれば申請人金田につき、十一月中代燃車をガソリン車に切替のため七日、申請人国松につき病気のため十月と十一月中に各四日の不稼働が認めうるようであるが、これらは前記のようにより正確と認められる被申請人提出の第三準備書面末尾の表に照し真実性が疑はれるので特別事情として採上げるわけにいかない。そこで右稼働すべかりし日数を別表その二の当該月の水揚高の一日平均額(甲第八号証第十五号証の各証により認められる稼働日数を以つて除して得た)に乗した額だけその月の水揚高を増加修正すれば別表その二の括弧内の額となる。(但し十円以下は四捨五入)この修正された額を別表その二の平均水揚高と対比して考察すれば申請人平野、長谷川、国松の三名はその水揚成績において他の平均に僅かに及ばないこととなり、これに前記不稼働の事由と証人増元喜久義の証言により認められる申請人国松が病弱であるという事実とを考慮に入れて判断すれば、その勤務状態が特に不良とは認められない。その他の申請人等は右修正の事由を考慮に入れるも尚平均水揚高に遠く及ばないことは数字上明白である。しかるに申請人等は被申請人会社が組合との間に結んだ協約を履行せずために従業員達の勤労意欲をそぐ結果となり水揚の上らない原因は被申請人自らが作つているものであると主張するが、成程真正に作成されたものであることにつき争のない甲第十三号証の一、三に証人堤常吉、沢山健次(第一回)の各証言を総合すれば被申請人は組合との間に結んだ給料支払日についての協約、フオード車以外の車を他社に譲渡しないこととの約束、代燃車よりガソリン車へ改造後は前に使用していた者にハイヤー勤めとして乗務させるとの協約を一部履行していない事を認めうるが同じタクシー部従業員で申請人等より多くの水揚高を上げている運転手の多数存することは先に認定した如く別表その二に示す通りであつて右被申請会社の不履行のために特に申請人等の水揚げ高の低下を来たしたことはこれを疎明するに足る証拠がないから右主張も採用できない。果してそうだとすれば申請人金田、平山、土村、家田等の前段認定の水揚成績の極めて不良なことに対する前段説示の特別事由は何の疎明もなかつたこととなるのでその不良は一応申請人等の勤務状態が特に不良なことを物語るものと推認するの外はない。

次に申請人等は本件解雇は不当労働行為であり運営委員会の決議を経ていない違法があると主張する。申請人平野、長谷川、国松については既に前記(ル)項該当者と認め難い者を(ル)項該当者として解雇した点において違法であり本件解雇は無効であるのでその余の違法原因についての判断は省略し、その余の申請人等についてのみ判断することとする。

まず不当労働行為との主張につき考えるに、たとえ本件解雇に申請人等組合員を排除して組合の弱体化を図らんとの意図があつたとしても一面において既に認定した通り懲戒解雇の要件を備えているものである以上、本件解雇を不当労働行為の故を以て無効ならしめるものではない。

次に運営委員会の手続違反の主張につき考えるに、就業規則第五十条に「制裁は運営委員会の決議を経てこれを行う」と規定されていることは被申請人の明らかに争わないところであり、真正に作成されたものであることにつき争のない甲第三号証(運営協議会契約書)によれば委員会の構成は会社側、組合側各三名で各二名以上出席の上議事を開くことが定められているが、決議方法につき可否同数の時如何に処置するかについては何ら定めるところがない。もし過半数の賛成がなければ決議成立しないものと解すれば、組合員に対する懲戒処分はたとえどんな非行があつたとしても組合側の委員が全員反対すれば処分できないこととなるが、これは明に不合理であるところよりみれば前記「制裁は運営委員会の決議を経てこれを行う」の意味は制裁を行うには予め運営委員会の議に附した上行うべく、組合側の意見をきくことなく会社側が一方的に闇打的制裁を加えないという程の意味に解すべきであり、証人沢山健次、増元喜久義の各証言を総合すれば昭和二十六年十二月二十三日及び三十日に開かれた運営委員会において、本件解雇の議が附されたことが疎明される。この認定に反する証人増元喜久義の証言は信用できない。よつてこの点についての申請人等の主張もまた理由がない。

そうすると申請人平野友紀、長谷川芳一、国松政一については懲戒解雇の要件に該当しないのに懲戒解雇にしたのは違法で無効であり、同人等は賃金労働者であるところより本件解雇無効確認の本案判決が確定するまで解雇されたままの状態におかれることにより著しい損害を蒙るであろうこと想像に難くないので被申請人の従業員たるの仮の地位を定めることを求めると共に、被申請人の明に争わないところの申請人等の解雇当時の平均賃金たる別紙その一記載の金員の支払を受けるための仮の地位を定める仮処分を求める同申請人等の申請はその理由があるのでこれを認容するが、その余の申請人等の申請はその理由がないのでこれを却下することとし訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 中村三郎 黒川正昭)

別紙<省略>

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